確定申告では毎年赤字なのに、手元にお金が残っている。
不動産投資を始めたばかりの頃、この矛盾が不思議だった。税務署に提出する申告書には「不動産所得:マイナス」と書いてある。でも銀行口座には家賃が振り込まれてくる。いったいどういうことなのか。
簿記の知識があったおかげで、この仕組みをすんなり理解できた。逆に言うと、この仕組みを知らないまま不動産投資をしている人は、数字の見方を根本的に誤っている可能性がある。
お金の動きと利益の計算は別物だ
会計の世界には「発生主義」という考え方がある。お金が実際に動いたタイミングではなく、取引が発生したタイミングで収益・費用を認識するルールだ。
不動産投資における最大のポイントは減価償却費だ。建物は時間とともに古くなる。その価値の目減りを毎年費用として計上するのが減価償却だ。重要なのは、減価償却費は実際にお金が出ていかない費用だということだ。
具体的なイメージで理解する
| 項目 | キャッシュの動き | 損益計算書 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | +50万円入金 | +50万円の収益 |
| ローン元金返済 | ▲20万円出金 | 計上されない |
| ローン利息 | ▲2万円出金 | ▲2万円の費用 |
| 管理委託料 | ▲3万円出金 | ▲3万円の費用 |
| 減価償却費 | お金は動かない | ▲30万円の費用 |
| 結果 | +25万円の手残り | ▲15万円の赤字 |
キャッシュはプラス25万円なのに、税務上は15万円の赤字になる。これが「赤字なのに手元にお金がある」の正体だ。
ローン元金返済が損益に出ない理由
もうひとつ重要なのがローンの元金返済だ。毎月の返済のうち元金部分は損益計算書に費用として計上されない。元金の返済は「負債の減少」であり、費用ではないからだ。
つまり毎月20万円以上のお金が口座から出ていくのに、その大部分は税務上の費用にならない。これがキャッシュフローと利益がずれるもうひとつの理由だ。
税務上の赤字がサラリーマンに有利な理由
この構造がサラリーマン投資家にとって非常に有利に働く。税務上の赤字は給与所得と損益通算できる。結果として課税所得が減り、源泉徴収で払いすぎた税金が還付される。
私の場合、この仕組みで5年間で累計100万円超が還付された。減価償却という「お金の出ない費用」が税務上の赤字を作り出し、その赤字が節税につながる——これが不動産投資の核心的な仕組みだ。
ただし減価償却はいつか終わる
注意点もある。減価償却は建物の耐用年数が終わると計上できなくなる。そうなると税務上の所得が増え、税負担が重くなる可能性がある。長期保有を考えるなら、この点も計算に入れておく必要がある。
まとめ——「赤字=失敗」ではない、数字の裏側を読む
税務上の赤字とキャッシュフローのプラスは矛盾しない。この仕組みを理解しているかどうかで、不動産投資の数字の読み方がまったく変わる。
確定申告書の「赤字」に一喜一憂するのではなく、実際のキャッシュの動きと税務上の利益を分けて把握すること。これが不動産投資を正しく評価するための基本だ。簿記や会計の知識は、不動産投資家にとって間違いなく武器になる。