仕事でM&Aを担当することになった人への参考、もしくは自分の備忘録として手順と考え方を整理しておく。対象会社の詳細は書けないが、プロセスとしての記録は残しておきたい。数字はイメージしやすいように適当なものとしている。
意思表明前にやるべきタスク
まず意思表明(LOI)を出す前に、社内外でやらなければいけないことがある。自分が整理したタスクは以下の3つだ。
①株価算定——買付価格の妥当性チェック
入手した修正PL・修正BSをベースに、買付申込価格が妥当かどうかを検証する。外部の会計士に正式な算定は依頼するが、役員会の説明資料は自分で作る必要がある。取締役の会計士と連携して進める予定だ。
②銀行への事前打診
確定ではないが、M&Aを実行する場合に融資してもらえるかの事前調査を行う。メインバンクが明確でないため、複数行に対して業者名は伏せたまま事業規模・業種・PLBSを説明して打診する方針だ。
③役員会の稟議資料作成
意思表明前に役員承認を取る必要がある。役員にはM&Aに詳しくない人もいるため、わかりやすい説明資料が求められる。
株価算定の考え方——DCF法とは
今回の株価算定にはDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)を使う予定だ。将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法で、M&Aの株価算定では最もよく使われる手法だ。
計算式のイメージはシンプルで、「将来のキャッシュフロー ÷ (1+割引率)のn乗」を各年分足し合わせたものが企業価値になる。問題は「割引率をどう設定するか」で、ここにWACCという概念が登場する。
WACCとは何か
WACC(加重平均資本コスト)とは、会社が資金調達にかかるコストの加重平均だ。DCF法で将来キャッシュフローを割り引く際の割引率として使う。
WACCの計算には以下の材料が必要になる。
負債コスト(Kd):対象会社の借入金利と実効税率(約30%)から算出する。今回の対象会社は有利子負債がゼロなため、この影響はほぼない。
株主資本コスト(Ke):リスクフリーレート(日本国債10年利回り、現在約1.5%)+β値×マーケットリスクプレミアム(日本では5〜6%)で算出する。β値は対象会社の業種リスクを示す数値で、上場していない会社の場合は類似上場会社のβを参照する。今回は業種ではβは1.0〜1.2程度を想定している。
資本構成:負債と株主資本の比率。今回は有利子負債ゼロのため、ほぼ株主資本コストがそのままWACCになる。結果として7〜10%程度が妥当な水準と考えている。最終的な数値は取締役の会計士と詰める。
対象会社の財務数字から見た価格妥当性
IMに記載されている修正PLをベースに、EBITDAを確認した。役員報酬の調整や削減可能費用を加味した実質営業利益に減価償却費を加えたEBITDAの3期平均は約2,400万円だ。
売り手の希望譲渡金額に対してEBITDA倍率で逆算すると以下のようになる。
| 価格 | EBITDA倍率 | 実質コスト(ネットキャッシュ控除後) |
|---|---|---|
| 3.5億円(売り手希望) | 約14.6倍 | 約2.5億円 |
| 2.5億円(競合他社) | 約10.4倍 | 約1.5億円 |
| 2.0億円(超お買い得?) | 約8.3倍 | 約1.0億円 |
今回の業種の一般的なEBITDA倍率は5〜10倍程度とされており、2億円水準の8.3倍は妥当〜やや割安の水準と判断できる。また対象会社はネットキャッシュが約1億円あり有利子負債がゼロのため、実質的な取得コストはさらに低くなる。この点は銀行への打診時にもアピール材料になる。
承認後に控えるタスク
役員会承認後には以下のタスクが控えている。
DDの業者選定と実施(財務・法務・税務)、DD結果を踏まえた価格再交渉、最終契約書(株式譲渡契約書)の締結、クロージング(代金支払い・株式譲渡)、そしてPMI(統合後の管理体制構築)だ。また税理士・弁護士への相談やNDAの締結確認なども並行して進める必要がある。
やってみて感じること
M&Aの実務は教科書では学べないことが多い。WACCひとつとっても、理論はわかっても実際の数値設定には業種知識や経験が必要だと感じている。社外取締役の会計士に頼れる環境があるのは心強いが、自分でも最低限の理解を持って臨まないと役員会で説明できない。
うまくいくかどうかはまだわからないが、このプロセスをリアルに記録として残していく。